【あきログ】 タイトル/嫌な女 著者/桂望実 出版社/光文社

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2019年05月25日


「嫌な女」と聞いて、あなたは誰の顔を思い浮かべるだろうか?フラれた女?意地悪な上司?合コンで豹変する女友だち?
桂望実の「嫌な女」には二人の女性が登場する。「私」こと弁護士の石田徹子と、その遠戚の天才詐欺師、小谷夏子の二人。徹子は子どもの頃から頭がよく、大学在学中に司法試験に合格、卒業と同時に弁護士になった。誰もが羨む経歴とは裏腹に、彼女はいつも得体のしれない寂しさや虚しさを抱えていた。一方、詐欺師の夏子は、いつも周囲から注目されていなければ気が済まない性格で、「ねえ、もし宝くじで百万円当たったらどうする?」とか「今までの人生で楽しかったことのランキングを一位から十位まで発表しよう」とか、他愛のないことで楽しい時間を演出し、男たちに夢を見させ、そして金品を奪っていく。二十代から七十代に至るまで、夏子が巻き起こす様々な「事件」に、徹子は夏子の弁護士として関わることになる。
「詐欺師なんて、嫌われるもんだと思うだろ。違うんだよ。愛されるんだよ、詐欺師ってのは。人から愛される特技があるもんじゃなきゃ、人なんて騙せない。」夏子を訴えると息巻く被害者たちは、実は心の中では、もう一度夏子に会いたい、復縁したいと願っている。夏子は優しい。男たちを騙して奪っていくが、与えるものもある。商売がうまくいかなくて困っている男を励ましたり、内気ですぐ諦めてしまう男に魔法をかけて自信をもたせたり、病院で人生の最後をむかえる男に輝きを与えたりもする。夏子が時々覗かせるこの優しさは、相手を騙すためのものではなく、心の奥から自然と湧き出てくるもののように感じられ、読んでいてホロりと涙を誘う。「みーんな、思い通りにいかない人生を過ごしてるわよ。そうゆうのを上手に隠しているだけなの。わたしだってそうよ。思い通りいったことなんて一度だってないんだから。」そう言って夏子は笑う。
そうなのだ。人生は思うようにはいかないのだ。みんな、思い通りにならない人生を歩んでいるのだ。自分だけが辛い思いをしているのではない。自分の弱さから、人を傷つけてしまうこともある。謝っても許してもらえないことだってある。でも気持ちを受け取ってもらうことはできるかもしれない。徹子は夏子との長い付き合いの中で、ただの最低の女だと思っていた夏子の生き様に、不思議な魅力を感じるようになっていく。それは腐れ縁というよりは、奇妙な「友情」と言えるものかもしれない。
「嫌な女」と聞いて、あなたはどんな物語を思い浮かべただろうか?小説「嫌な女」はそのタイトルから受けるイメージとは異なり、仕事のこと、家族のこと、老いること、そして死ぬことについて綴られた物語だ。この本を読み終えた後、あなたにとっての「嫌な女」が、とても愛おしい人に感じられるかもしれない。

読書コミュニティーうろこ会 近藤 章
グラフ旭川 2017年 1月号 「今月の推薦本」に掲載

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